福岡高等裁判所 平成3年(ネ)921号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
一 控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。
二 本件事案の概要は、原判決中の第二「事案の概要」欄(二枚目裏二行目から一三枚目表三行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
三 争点に対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
1 争点1(被控訴人の地位)について
当裁判所も、被控訴人はA町長の弁護人となろうとする者の地位を有していたと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示(一三枚目表七行目から一四枚目表一二行目まで)と同一であるから、これを引用する。
原判決一四枚目表一〇行目の「報告していないこと」の次に、「、また、被控訴人は、取調べ中の被疑者との面会を本人以外の者から電話で依頼された場合には、通常、その者の弁護人選任届を持参せず、被疑者に面会した際、直接本人から右選任届を徴することにしており、本件でも、そのようにする意思で田川署に赴いたこと」を挿入する。
2 争点2(弁護権侵害行為の有無)について
被疑者の弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)は、当然のことながら、その弁護活動の一環として、何時でも自由に被疑者に面会することができる。その理は、被疑者が任意同行に引き続いて捜査機関から取調べを受けている場合においても、基本的に変わるところはないと解するのが相当であるが、弁護人等は、任意取調べ中の被疑者と直接連絡を取ることができないから、取調べに当たる捜査機関としては、弁護人等から右被疑者に対する面会の申出があった場合には、弁護人等と面会時間の調整が整うなど特段の事情がない限り、取調べを中断して、その旨を被疑者に伝え、被疑者が面会を希望するときは、その実現のための措置を執るべきである。任意捜査の性格上、捜査機関が、社会通念上相当と認められる限度を超えて、被疑者に対する右伝達を遅らせ又は伝達後被疑者の行動の自由に制約を加えたときは、当該捜査機関の行為は、弁護人等の弁護活動を阻害するものとして違法と評され、国家賠償法一条一項の規定による損害賠償の対象となるものと解される。
これを本件についてみるに、被控訴人は、昼休みの時間帯に田川署に赴き、A町長との面会を申し出たものであるが、B刑事課長からその旨の連絡を受けたC警部及び現にA町長の取調べに当たっていたD警部補は、捜査の都合を理由に、右申出があったことを速やかにA町長に伝達しないまま取調べを継続し、他方、被控訴人と直接折衝に当たったB刑事課長は、具体的な面接時間の調整を図るなど被控訴人の弁護活動に配慮した対応をせず、取調べ中の捜査官からの連絡を待つようにと一方的に通告する態度に終始した。加えて、本件でA町長が同行された場所は、被疑者側の誰にも知らされておらず、したがって、被控訴人は、田川署から車で一〇分以上掛かる別の場所でA町長の取調べが行われていることを知らないまま、その場で直ちに面会できることを期待してB刑事課長と交渉に当たっていたという経緯があり、以上のような具体的な状況の下では、B刑事課長及びC警部の行為は、社会通念上相当と認められる限度を超えて弁護人等の弁護活動を阻害した違法があるものと認められる。
3 また、以上のような事実関係を総合すると、B刑事課長及びC警部は、被控訴人の弁護活動を阻害したことについて過失があったものと認められ、被控訴人は、これによって精神的苦痛を受けたことが認められるところ、右精神的苦痛を慰謝すべき額は、諸般の事情に鑑み、五万円をもって相当と認める。
四 よって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官鍋山健 裁判官小長光馨一 裁判官西理)